脱出のトライアングル -シーズン1「発症から苦しみの道程」ー④ 激流の症状の正体
2017年5月、病院受診の予約をいれた僕は、安心感など全くなく、
ただただ、様々な症状に苦しめられた。
5月のGW、、、周りは連休で心浮かれている中、僕は身体的な症状と、不安や焦燥感、孤独感、胸がゾワゾワする感覚といった精神的な症状に苦しめられていた。
症状がある中でも、GW中休みながらも仕事は続けていた。
治まらない動悸や頻脈、のぼせ、、、
運動したわけでもないのに、常に脈拍が100回~120回あり、ドキドキと動機を自覚していた。
「胸が苦しい、、、顔や頭がほてっている、、、熱い、、、」
少し動くとすぐに息切れをしてしまい、動くことが本当に大変だった。
この動悸や頻脈、のぼせもうつ病の症状の一つであるらしい。
自律神経系の乱れによって引き起こす症状。
顔はほてっているが、手足が無性に冷える、時には寒気すらする。
「顔が熱い、頭が熱いのに、すごく寒い、、、どうしてだ。」
外や自宅は、春の陽気で温かいのにどうして寒いのか。
寒いので、冬物のフリースなどを着て過ごしているけど、すごく寒い。
その時の妻に、
「寒いから暖房もう少し強くしもていい?」
と聞くが、
「いやいや熱いよ。」
と話され、
「そうだよな、熱いよな。俺が変なんだ。」
ますます不安になっていった。
手足の冷えの原因として、交感神経が優位になり、末梢の(手足の)血管が収縮しすることで、手足の冷えを自覚し、顔面や頭部に血流が集中してしまうために、顔や頭がほてってしまうのだろうと思う。
また、下痢も頻度が多くなり、市販薬の整腸剤を飲んでも効果がなかった。
1日に3回~4回下痢をしていた。
「また、下痢か、、、」、「また下痢か、、、」
トイレに行くたびに、下痢をしていることに不安感を抱き、その不安感がまた、下痢を呼ぶという悪循環に陥っていた。
「下痢があるから、あまり動けない。動くと漏れそうになる、、、」
下痢や便通異常も、非常に苦しい。
腹痛があるだけではなく、行動も制限させてしまい、精神的な症状を増強させてしまう。
【大腸や胃】は、脳と密接に関係しており、ストレスや精神的な負荷があると、下痢や便秘、胃痛といった症状を招くらしい。
脳腸相関という言葉がある通り、脳と腸は神経的と連携しており、脳がストレスなどを感じると腸内環境が乱れて、便通に異常をきたす。
どうやら、うつ病などの精神疾患と腸内細菌の働きが密接関係していることが最近の研究で明らかになっている。
現在、心療内科や精神科において、腸内環境を整えるために管理栄養士による指導も実施されている医療機関が増えている。
腸内環境を整えることで、精神衛生が平穏に保たれる。
今、冷静になって上記のメカニズムを多少は理解できるが、下痢で苦しんでいるその時は、下痢によって不安になる、下痢によって不安になるの繰り返しであった。
さらには、食欲の低下も顕著であり、好きなものなどもほとんど食べられない。
「全然食べれる気がしない。いや、食べたくない。」
食事を前にしても一向に箸が進まない。
1口、2口、、、もう満腹、、、。食べれない、、、。
これも、自律神経系の乱れであるらしい。
おそらく、うつ病は満腹中枢のある視床下部にも何らかの影響を及ぼしていると思う。
あれほど食べることが好きだった僕が、食べることを拒否している。
好きだったラーメン、かつ丼、焼肉、カレーライス、、、
食べたい気持ちがない、むしろ食べたくない。
このように、僕は、訳が分からない身体症状に振り回されていった。
原因がわからない身体症状、、、医療従事者でもわからない身体症状、、、。
僕は、ますます弱っていった。
動悸や頻脈、頻回の下痢、食欲低下が重なり、体重が1~2週間で3~4キロ低下した。
減量中のボクサーのように、短期間でどんどん体重が減少していった。
このような状態だから、体力がない。
うつ病の症状は、体重だけではなく、僕から体力を奪い、気力も奪っていった。
うつ病は精神的な病気だけではない、身体的な病気でもある。
うつ病は多種多様な症状があるが、身体的な症状の方が多岐に渡るような気がする。
心臓の病気かもしれないと感じる【動悸や頻脈】。
消化器系の病気かもしれないという【下痢と食欲低下、吐き気】。
自己免疫疾患かもしれないという【のぼせやほてり】。
人によってはもっと多様な症状が出現すると思う。
精神的な症状として、
不安感が顕著であった。
何に対しても不安感があった。
自宅の外にでること、車に乗ること、歩くこと、仕事に行くこと、人と話すこと、、、。
すべてに不安感が付きまとった。
僕は、いつも明るく元気であり、コミュニケーションも積極的に取り、ユーモアがあり、職場同僚や友人などを笑わせることが得意であった。
次から次へと話題が浮かび上がり、人と話ししていると話がつきることがなかった。
また、患者さんとの面談、学生への面談も好きであり、とくかく話すことが大好きであった。
こんな僕が、人と話すことが怖くなって不安になっていく、、、。
訳も分からない不安、歩いていても不安で不安で歩いている感じがしない。
浮遊感があり、常に浮いている感覚であり、地に足がついていない感覚であった。
文字を読んでも頭に入ってこない【集中力の低下】があった。
僕は集中力がある方だと思っていた。
読書も好きであり、興味のある200~300ページの小説なら1日で読むことも可能であり、仕事でのメールの返信も即対応できた。
そんな僕が、本も読めない、メールも読めない。
「どうしたんだ、、、あんなに集中力があったのに、、、」
怖くなった。
自分自身の変りように、逃げ出したくなった。
逃げ出したい僕に追い打ちをかけるように【思考力の低下】も現れた、、、これも顕著であった。
ある日突然、コンセントの挿し方がわからなくなった。
どのようにコンセントを差し込んだらいいのかわからない、、、。
「あれ、何しているんだ僕は、、、」
顔が熱くなり、現実が遠のく感覚。
軽いめまいをおぼえながら、コンセントの挿し方を必死思い出そうとした。
「いったい、どうしたんだろう。」
もう、怖くて怖くてどうすることもできなかった。
車のエンジンをかけるのも必死だった。
そう、思考力低下や集中力の低下は【日常生活の支障】をきたす。
しかも、大胆に支障をきたす。
今まで何ら問題なくできたことができなくなっていくがうつ病。
これも症状の一つ。
その時は、うつ病だと思っていなかったし、うつ病がこのような症状があることなどの知識もなかった。
その時、うつ病についてネットで調べるには調べたが、これら上記症状を目にすることはなかった。
いや、
「自分はうつ病ではない。明るく元気な僕がうつ病なんてなるはずがない。」
と否定していたから、具体的な症状を調べていなかったと思う。
動悸や息切れ、のぼせ、下痢、食欲低下、集中力低下、思考力の低下、不安や恐怖など
すべての症状が脳から来ている症状である。
不安や恐怖などの情動の制御は、大脳辺縁系の扁桃体が関与している。
うつ病はその扁桃体が反応してしまうことで、不安や恐怖、情動に処理、記憶、価値判断がうまくできなくなり、さらには、扁桃体は交感神経系にも関与してしまうために、動悸や息切れ、下痢、食欲低下を引き起こすと思う。
扁桃体を含む、大脳辺縁系に反応を引き越すことで、多種多様な身体的、精神的な症状が現れると思う。
この生命の関与する大脳辺縁系が、
「もうこれ以上、身体的、精神的な負荷は無理だぞ。もう限界だぞ。」
という危険信号を発信し、ストップをかけるためにその大脳辺縁系が反応して様々な症状を引き起こしていると思う。
このように、うつ病は脳の病気であると思う。
決して、精神的に弱いとかの問題ではなく、また、怠けているとかそのような問題でない。
この激流の症状の正体は【うつ病の症状】であるが、その時の僕はする由もなく、
不安と恐怖の中で受診の日をむかえる。
と祈るように受付を済ませた。
待合室にいる患者さんを見ると、当然ながら元気がない。
僕も元気がない。
病院だから患者さんは元気がないのは当たりまえだが、、、その時の僕は不安材料でしかなく、ますます不安になった。
いくつかの種類の心理検査のチェックシートを記入したが、集中力の低下や思考力の低下のある僕では、しっかり記入できる自信がなかった。
やっとの思いでチェックシートを記入して、精神保健福祉士さんの問診が始まった。
下腹部痛のこと、パニック発作のこと、それから様々な症状のことを話した。
話している時に、担当してくださった精神保健福祉士さんの対応がすごく冷たかったことをおぼえている。
不安や恐怖を抱えている僕には、この対応はきつかった。
この対応がますます不安を呼び、ドクターとの診察前に意気消沈していた。
このクリニックは混雑しており(今ではどこの心療内科も精神科も混在しているが、、、)、ドクターとの診察に3時間近く待った。
意気消沈して不安な僕は、待って時間が長いことにさらに不安になった。
順番がとなり、診察室に入った。
入ったとたん涙が出てきて号泣してしまった。
号泣している僕に、ドクターは問診票と心理検査を読みながら、
「うつ病ではないけど、躁鬱傾向がありますね。」
と言われた。
うつ病ではないと言われたことに、少し安心したせいか、また号泣してしまった。
号泣しながらも、さまざまな身体的、精神的な症状のことを話した。
「良く耐えてきましたね。あなたは強すぎて我慢しすぎて症状が悪化したんでしょう。」
ドクターは僕の話した症状から、
「自律神経失調症でしょうね。安定剤を1日1錠のやつを出しておきます。1週間様子見てください。」
いわゆる、マイナートランキライザー系の抗不安薬を1週間分もらい、クリニックを後にした。
「これで良くなるんだ!」
薬漬けにされると思ってたに、1日1錠で済んだことに嬉しさを感じていた。
「しかし、この先本当に良くなるのか、、、。」
と不安も抱えながら、自宅に帰り薬を飲んだ。