脱出のトライアングル -シーズン1「発症から苦しみの道程」ー⑫回復のためのリハビリ
入院して1ヶ月半が経過し不眠は続いていたが、日中の活動量は増加していった。
入院中に実施するリハビリは主に、
・運動(ストレッチや筋トレなど)
・手作業(プラモデルや手工芸など)
の上記2種類で午前と午後にプログラムされている。
もともと体を動かすことが好きであり、元気なころはランニングしたり筋トレしたり、格闘技をしたりと汗を流していた。
生活習慣の乱れから、ここ2年~3年くらいは運動という運動は全くしていなかった。
生活習慣の乱れが顕著であった。
生活習慣の乱れからいつも睡眠不足を感じていたし、体重も増加していた。
明らかにメタボリックになる生活をしていた。
(うつ病になり体重は12キロ減少したが健康的にやせた訳ではない。)
このような経過から、入院して運動したのはかなり久しぶりであり、体を動かすことの気持ちよさが身に染みた。
「ストレッチってこんなに気持ちよかったんだ。」
「筋トレって自信につながるんだ。」
運動を楽しめる自分が嬉しく感じれた。
「感情が戻ってきている。」
運動によって感情が戻ってきていることもまた嬉しく感じた。
この2~3年は、感情が麻痺していたかもしれない。
嬉しさや悲しさを昔ほど感じなくなり、疲れも自覚しなくなっていたことから、感情が麻痺して、うつ病へとつながっていったんだと思う。
このように、運動の効果を味わい、明らかに回復している身体に喜びを感じながら、週に3~4回運動療法を続けていた。
近年の研究で、うつ病の人が運動すると
・脳の健康に関係する様々なホルモンが増加する
・炎症反応が低下する
という研究結果があり、うつ病に運動は効果的であると考えられている。
ウオーキングや散歩もセロトニンを増加させるのはないかと考えられているために、うつ病の人に推奨されている。
運動はうつ病に効果的なのは、研究結果や自分自身も体験し間違いないと思うが、あくまで「適度な運動」であると思う。
やみくもに激しい運動や強い負荷かけた運動や筋トレは逆効果になってしまうのではないかと思う。
自分でその「適度な運動」を見つけることで、はじめて運動が効果的になると考える。
激しい有酸素運動は、身体の二酸化炭素の量を増加させて脳を刺激し、不安物質の放出を促すことで、不安感や恐怖感を強めてしまうかもしれないと最近は考えている。
何事もやりすぎないことが肝心である。
うつ病の方は、まじめな人が多いので自分で厳しいノルマを課してしまい、とことんやってしまい、疲労困憊になりうつ症状の悪化を招くこともある。
しかし、そのころの自分は調子良いことを喜び、「もううつ病は改善されている。」と勘違いしてしまい運動強度をどんどん上げていってしまっていた。
担当の看護師さんからは、
「やりすぎは良くないですよ。休むことも必要ですよ。」
アドバイスをもらっていたのにも関わらず、運動を楽しみ良くなっている自分に一喜一憂していた。
この時の看護師さんのアドバイスをきちんと聞いていればと、、、このことを後悔するのは、ずっと先のことである。
運動療法で効果を実感していた僕は、手作業にも参加していった。
最初に参加したプログラムは、「プラモデル」である。
これは、集中力や思考力の改善を目的としているらしい。
プラモデルは、小学生の頃以来作ったことがなかったので、自信がなかった。
リハビリ担当の方が、
「簡単なものがありますので、ゆっくり作っていきましょう。」
と温かく迎えてくれたので、本当に簡単なキャラクターもわからないプラモデルを作ることになった。
対象は小学1~2年生と書いてあった。
しかし、対象が小学生といえども、うつ病で集中力や思考力が落ちている自分には、容易に作ることができなかった。
説明書を見ながら作成するのだが、その説明書がなかなか読めないのである。
文字を追うことはできるが、頭に入ってこない。何度も何度も読んでやっと完成できなたが、もう疲労困憊である。
「最初は時間がかかりますが、症状が落ち着いてくると少しずつ説明書も読めるようになります。焦らずゆっくりいきましょう。」
リハビリ担当の方が笑顔で説明してくれた。
また、完成したプラモデルを褒めてくれた。
「人に褒められたのは何年ぶりだろうか。」
褒めれたことがうれしく、また参加しようと思った。
このように、回復のためのリハビリが午前と午後にあり、担当看護師さんやリハビリ担当の方と相談しながら参加していった。
リハビリ中は、不安感や恐怖感はほとんどなく運動や作業に没頭できる。
「没頭」することが治療であり、いわゆる作業療法と言われている。
うつ病になると、頭で色々な良からぬことを考えてしまい不安になり恐怖に怯え、苦しく辛くなってしまう。
薬で安定しても、何かしらの拍子に良からぬことを考えてしまい落ち込んでしまう時がある。
その、「考える」ことを、目の前の作業に没頭することで、「考えにくく」することが作業療法であると思う。
医療従事者の僕は、そのことにあまりにも無知すぎた。
教科書では、うつ病には作業療法が良いとか、運動が良いとかいろいろと書いてあったが、まさかこのような効果があるのかと、自分の知識のなさに情けなくなった。
自分自身が体験して、はじめて作業療法の偉大な治療効果に驚愕した。
作業療法に参加しながら、「考えるくせ」を軽減していく。
リハビリに精を出す一方で、うつ病を理解するための勉強会にも参加していくようになった。