脱出のトライアングル -シーズン1「発症から苦しみの道程」ー⑤抗不安薬

2007年5月、様々な身体的、精神的な症状に苦しんで僕は、心療内科を受診し、抗不安薬を1週間分むらい帰宅した。

 

「これを飲んだら良くなるだろうか、、、不安だな。」

 

症状に苦しめられながらも、

 

「薬漬けにはされたくない!」

 

と強く思っていた。

 

医療従事者の僕は、うつ病などの精神疾患の患者さんが薬を飲んで副作用に苦しめられていることや、薬からなかなか脱せない方々も多く見ている。

 

薬(クスリ)は反対から読むと、【リスク】。

 

そのことが頭に充満しており、精神科の薬にかなりの拒否反応を起こしていた。

 

精神科の薬を飲むこが不安で不安で仕方がなかった。

 

僕は過去、医療機関で勤務していた時は、夜勤などもあり軽い睡眠障害になったことはあった。

 

その時は、入眠導入剤を飲んで睡眠のリズムを整えていたが、

 

今回の症状は自分でも、

 

「あの時のような軽い状態でない。自分では制御できない不安感や身体的症状がある。

これは本物だ。」

 

と、過去の状態とは違う自分自身に不安があり、

 

「この本物の状態で薬を飲み続けることは、きっと薬漬けになってしまう!。」

 

と不安が不安を呼び、薬に対する抵抗感が強かった。

 

 

私が飲んだ薬は、一般的にマイナートランキライザー抗不安薬であり、その中でも、長時間作用型であるために、依存性が低いとされている。

 

一般的に、精神安定剤は「マイナートランキライザー」と「メジャートランキライザー」に分かれている。

 

トランキライザー】とは、精神を穏やかにする、つまり精神安定剤の意味らしい。

 

そのトランキライザー中で、「マイナー」と「メジャー」に分かれているが、現在ではこのように呼ばれることは少なくなってきている。

 

私が処方されたマイナートランキライザーは、ベンゾジアゼピン系といわれる抗不安薬であり、現在は、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬として一般的に認知されている。

 

ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、効果の強さ、効果時間によって色々な種類があり、患者さんの症状によって、その強さや作用時間を考慮して処方されているようである。

 

また、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、耐性や依存性が生じることもある。

 

処方した医師からは、

 

「この類の安定剤は、効果が強く感じるものかつ、作用時間が短いものは依存しやすくなる。今回、処方した安定剤は効果時間が長いので依存性が起こりにくいとされています。」

 

と説明を受けた。

 

自宅に帰り、自分の処方された薬について色々と調べてみた。

 

薬の効果、作用の強さ、効果時間、依存性、耐性、副作用、、、

 

また、この薬を飲んだ方の体験日記なども、自分が調べられることは1通り調べた。

 

耐性がついた、依存性がついたなどの意見もあり、怖くなった。

 

 

薬は【リスク】、、、

 

僕のように、薬に対して抵抗感がある人は多いのではないのかと思う。

 

特に、医療従事者は精神科の薬に対して敏感の人が多いのではないかと思う。

 

直に、患者さんが苦しんでいるのを見ているから、自分のことになると、、、怖くなると思う。

 

このように医療従事者は、知識が経験もあることから、

病気になると、過剰な心配をしてしまうのではないだろうか。

 

僕はただでさえ、ヒポコンドリー性基調的な性格なので、

 

自分の病気について、薬について、怖くて怖くて仕方がなかった。

 

しかし、先生から言われたことば、

 

うつ病ではない。」

 

その言葉を信じて、症状が少しでも良くなるならばと、薬を手にとり意を決して1錠飲んだ。

 

薬を飲んだが、落ち着かずそのまま散歩に出かけた。

 

30分ほど散歩して自宅戻ると、眠気が襲ってきた。

 

 

この症状が現れてからは、大好きだった昼寝をすることができなくなっていた。

 

昼寝をしようとするが、頭がギラギラして、不安になり胸がザワザワして苦しくなっていた。

 

不安から、マイナス思考になり、頭の中にネガティブなことがグルグルと周り、昼寝ができなくなった。

 

これはおそらく、うつ状態で常に精神的、身体的に緊張状態のために、寝る=安静=落ち着くことができなくなっていたと思う。

 

夜間の睡眠も、早朝覚醒が目立ってきたのも、緊張状態だったのだろうと思う。

 

常に緊張状態であるから、いつもいつも疲れていた。

 

うつ病が疲れやすいのは、常に緊張状態であり、興奮している状態であるのも一つの原因と思う。

 

眠気が襲ってきた僕は、ソファーで昼寝をした。

 

、、、1時間後、

 

「あれ、昼寝できた!やった!」

 

昼寝できたことがとても嬉しく、飛び上がりたい気持ちであった。

 

たしかに、胸のゾワゾワ感は不安がかなり軽減された感じがあった。

 

「薬が効いた!良かった!」

 

1人でいる訳も分からない漠然たる不安が、さらに不安を呼び、どうしようもできなかったが、今は少し楽にもなった。

 

症状の全部が全部消えた訳ではなかったが、幾分軽減されたことに喜んだ。

 

集中力低下や思考力の低下、食欲の低下は相変わらずであり、下痢も続いていた。

 

症状が多少良くなった自分に安心感を抱き、次の日仕事にいった。

 

仕事をこなしていくが、

 

浮遊感なども症状は相変わらずであった。

 

「僕はうつではないし、薬を飲んで少しは良くなったんだ、もう少しで全快になるはずだ。」

 

と、自分にいいきかせて、次の受診までの1週間を過ごしていった。

 

夜も断眠だが、薬を飲む前よりは眠れるようになった。

 

「前よりは眠れるし大丈夫だろう。」

 

以前の元気のときよりは、何か身体的にも精神的にも弱っている感じではあったが、上記のように少しは良くなっていることをプラスに考えていた。

 

 

1週間後、受診の日がやってきた。

 

先生には、不安感や胸のザワザワ感が軽減したが、食欲低下や下痢が続いていること、夜も断眠はあるが以前よりは眠れるようになったことを伝えた。

 

「あと1ヶ月ぐらいすればもっと良くなります。薬を続けて見てください。」

 

と、2週間分の抗不安薬をもらい帰宅した。

 

安心した僕は、

 

「久しぶり外食でもしようか。ドライブにも行こうか。」

 

と、少し良くなっている自分に喜びを感じていた。

 

しかし、この後に、今までの症状よりも強烈な苦痛が襲ってくるとは思いもしていなかった。

 

受診した2、3日後のこと。

 

夜は眠れたが、朝からやや不調であった。

 

薬を飲むことで、不安感や焦燥感、胸のざわつきは多少治まったと思っていたが、かんり強くぶり返してきたのだ。

 

休みであったその日、1人で自宅にいたが、全くゆっくりできない。

 

ソワソワして落ち着かず、またあの不安感が襲ってきた。

 

「え!何で?またあの不安感がきた。どうして?」

 

と頭が混乱していった。

 

「薬を飲んでからの1週間は、症状が幾分軽くなり、これから良くなっていくはずだったのでは。」

 

と思っていたが、症状は次次に襲ってくる。

 

対人恐怖、広場恐怖、自宅から外にでくることの恐怖や不安、、、

 

あの症状たちがどんどん戻ってくる。

 

このような状態でも、仕事にいくには行っていたが、全然動けなくて、頭が働かった。

 

いわゆる使いものにならなかった。

 

しかし、仕事は休めない。

 

仕事の休む方が分からない。

 

今まで、遮二無二仕事していた自分。

 

仕事が大好きな自分。

 

輝いていた自分。

 

自分が病気であることを自覚することや、仕事を休むことなどできる訳がなかった。

 

今、休んでしまうとすべてが壊れる。すべてがダメになってしまう。

 

というように、限界が来ているのに、自分をいたわらなかった。

 

仕事を休んで自宅にいると妻にも心配かけるし、何を言われるかわからない。

 

業務的にも、家庭的にも仕事を休めることができなかった。

 

プライド、、、そう、すべてにおいてプライドが休養を邪魔した。

 

この病気の治療には、プライドが邪魔する時がある。

 

うつ病の体験記などでも、プライドが邪魔して悪化してしまう人がいることを目にする。

 

プライド、、、僕は、自分の芯を持つために、軸がぶれないようにプライドを大切であると思うが、がんじがらめのプライドはかえって病気を悪化させてしまうのではないかと思う時がある。

 

自分でもいまだにプライドは必要なのかと悩む時がある。

 

・・・

 

仕事でも自宅でもゆっくりできなく、さらに、病気の症状が強くなってぶり返した僕は、この先もっと苦しむことになった。

 

とまらない下痢、食欲低下、、、、症状が発症してから、体重が3週間で7キロ減少した。

 

睡眠も、なかなか入眠できない、、、入眠しても2時間くらいで起きてしまい、その後眠ることができない。

 

寝ている時も常にはっきりとした夢を見ている状態であり、全く寝た気がしない。

 

漠然たる不安感や焦燥感、胸のザワツキ、浮遊感、、、

 

一番驚いたのは、歯磨きができなくなったことだ。

 

「あれ?歯磨きってどうやってやるんだっけ?」

 

歯磨きが出来なくなった自分に驚いたとともにショックであった。

 

「俺、もうやばいかも、、、。」

 

思考力の低下や集中力の低下はかなり進行していた。

 

このような症状にプラスして起きたのが、嗅覚過敏であった。

 

とくかく、臭いにすごく敏感になり、200メートル以上離れた、消臭剤の香りが鼻につき苦痛だった。

 

臭いを認識するのは、鼻の奥になる嗅上皮であるらしい。また、臭いは大脳辺縁系に直接届き、視床下部や下垂体、大脳皮質にて、臭いを判別する。

 

うつ病大脳辺縁系が何らかの反応を起こして、様々な症状を起こすこと考えると、嗅覚過敏になることも不思議ではない。

 

嗅覚過敏も大脳辺縁系の何らかの反応であると思う。

 

また、何もしていないのに、涙がでてきてしまい不安定にもなった。

 

 

このように、症状が強くなったことで、まだ次回の受診まで1週間あったが、我慢できず受診することにした。

 

 

症状の再燃したことを号泣しながら医師に告げると、

 

「大丈夫、大丈夫。薬を飲んでいればあと1ヶ月くらいで良くなります。」

 

なかなか眠れないことも困っていることつげると、

 

睡眠導入剤を出しておきます。また、頓服で短時間型の安定剤も出しておきます。」

 

といわれその日の受診は終わった。

 

「本当に大丈夫だろうか、、、。」

 

この予感は的中し、その後も大丈夫ではなかった。

 

苦しみはさらに続いた。